二十四節気 第14節 処暑 「陽気とどまりて、初めて退きやまむとすれば也」

14、処暑

処暑とは、二十四節気の第14番目で、7月中、定気法では、太陽黄経が150度のときで8月23日ごろのことです。
処暑の「処」という文字には「とめる」「とまる」などといった意味があり、この時期から次第に暑さが収まってくるとされています。
江戸時代の暦の解説書でもある暦便欄では、「陽気とどまりて、初めて退きやまむとすればなり」と記されています。残暑はまだまだ厳しいのですが、夏の太陽の勢いが徐々に弱くなって、朝晩には、涼しい風も吹き、過ごしやすくなる時期です。
時候の挨拶でもある、処暑の候、処暑の折、処暑のみぎり、などは処暑の時期に使います。
また、処暑、は初秋の季語でもあるので、俳句でもよく用いられます。

二百十日/二百二十日

「二百十日」は雑節のひとつで、立春から数えて210日目の日のことです、さらに、二百十日の10日後を二百二十日と呼び、同様の雑節で、旧暦8月1日の「八朔」、「二百十日」、「二百二十日」を「農家の三大忌日」と呼ばれました。
二百十日の頃は、「中稲(なかて)」が開花して、米の収穫への期待が膨らむ時期ですが、台風の上陸の可能性が高い時期でもあります。農作業に従事する人々はこの時期を「厄日」や「荒れ日」と呼び、最大限に警戒しました。二百十日の時期に吹く強い風は「野分」と呼ばれ、「野の木や草が吹き分けられてしまうほどの強風」を意味します。また、二百二十日は、稲の中で最も収穫時期の遅い「晩稲(おくて)」の開花時期にあたり、こちらも、台風の襲来に注意が必要な時期です、古来より人々はこの日を恐れて警戒して、風を鎮める祭りを行ない、収穫の無事を祈るようになりました。

おわら風の盆

二百十日や二百二十日頃の台風の強風を鎮め、作物を守るために執り行われる祭りは「風祭」と呼ばれ、全国各地に残っています。
特に有名な風祭りとしては、富山市八尾町で行われる「おわら風の盆」が知られています、
越中八尾「おわら風の盆」は、風を鎮める豊年祈願と盆踊りが融合したもので、300年以上の歴史があります。坂の町・八尾の古い街並みに哀愁をおびた胡弓の音色が響き、越中おわら節にのせて、編み笠をかぶった男女が無言で踊り歩きます。揃いの法被や浴衣姿に編笠をつけた踊り手が、三味線、胡弓の地方にあわせて踊り、町中を流し歩きます。誰もが楽しめる「豊年踊り」、優雅な「女踊り」、勇壮な「男踊り」があり、男女ペアで艶やかに踊ることもあります

秋の七草

七草と言えば、春の七草、を連想される方が大半でしょうが、秋にも七草が春の七草があります。春の七草は1月7日に七草粥を食して1年の無病息災などを祈る風習などから、食用として知られています。一方で、秋の七草は鑑賞重視のものです。野山に咲く美しい花を鑑賞して、季節を感じ、慈しむ、それこそが秋の七草の目的です。また、秋の七草は食用ではありませんが、薬草として漢方や生薬に使われてきた草花が含まれています、日本人を目や口から癒してきた秋の風物詩 です。
秋の七草は万葉集に収められている山上憶良の2首の歌が元になっています。
「秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花」
「萩の花 尾花 葛花 撫子の花 女郎花 また藤袴 朝貌の花」
1つ目の歌の意味は「秋の野に咲いている草花を指折り数えると7種類ある」
2つ目の歌は「それは萩の花、尾花、葛(くず)の花、撫子(なでしこ)の花、女郎花(おみなえし)、また藤袴(ふじばかま)、朝貌(あさがお)の花である」と7種類の草花を説明しています。「朝貌」は「朝顔」のことで、諸説ありますが、現在では桔梗(ききょう)のことだと言われています

地蔵盆

各町内に点在するお地蔵様をおまつりして、子どもたちの健やかな成長を願う催しで8月23日、24日の地蔵菩薩の縁日を中心に行われます。
主には、京都を中心とした近畿地方や北陸、信州などで行われ、関東・東海地方ではほとんど行われることはないようです。
京都では、昔から各町内ごとに地蔵尊の前に屋台を組んだり、テントを建てたりして、花や餅などのお供物をし、子どもたちが集まりゲームをしたりお菓子をいただいたり、福引などして楽しく過ごします。
地蔵盆でおまつりする地蔵信仰は平安末期の貴族の間で盛んになり、その後次第に民間へと広まっていきました、地蔵菩薩は子供たちを鬼から守るとされ、この行事が生まれました。各町内では地蔵尊を清めお化粧をし祭壇に祀って供養します。子供たちは輪になり数珠を回して地蔵尊を粗末に扱ってはいけないことを教わります。

七十二候

初候 8月23日〜8月27日頃 綿柎開 わたのはなしべひら

「柎(うてな、いかだ)」は花のガクをさす漢字です。綿を包むガクが開き始める頃で、綿の実がはじけて白いふわふわが顔をのぞかせます。綿はアオイ科の植物で、タチアオイに似た淡く黄色い花が咲き、丸くふんわりとふくらんだ実ができます。そしてその実が熟してはじけると、種をくるんでいる白いふわふわとした綿花が現れます、この繊維で糸や織物、木綿などが作られます

次候 8月28日〜9月1日頃 天地始粛 てんちはじめてさむし

ようやく暑さもおさまり始める頃。
「粛」には縮ようやく暑さが静まってくる頃、天気図には秋雨前線が登場して、雨降りとなり、冷たい空気とともに秋を運んできます。天地の暑さがようやく鎮まり始めるむ、鎮まる、衰えるという意味があり、勢いよく燃え盛っていたような天地の暑さもようやく鎮まるという意味です。

末候 9月2日〜9月6日頃 禾乃登 こくものすなわちみのる

日に日に稲穂の先が重くなってくる頃。稲穂はこぼれるように実って、黄金に色づき始めます。いよいよ稲が実り、穂を垂らす頃。「禾(のぎ、いね)」は稲穂が実った様子を表した象形文字、「登」は実る、成熟するという意味があります。ちなみに、「実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな」は、学徳が深まるとかえって謙虚になることのたとえです

投稿者 #泰成明